電子ブックの体験記
払えない人が続出し、そこからデフォルトは始まった。
しかもこの種の住宅ローンは、銀行がそのまま自行のポートフォリオに残したものもあるが、そのほとんどは証券化された。
アメリカの証券化ビジネスには20年近い歴史がある。
私も1991年に、サンフランシスコにある弟の家を買ったが、住宅ローンを払う相手はその後何回も替わった。
「今年まではA銀行だが、来年はB社に住宅ローンを払ってください」と、年末に業者から通知書が来たものである。
私の住宅ローンはこちらが知らない聞に証券化され、A銀行からB社へ、さらにはC銀行へ転売されていたのである。
今回は証券化されたローンを再度細かく切り刻んでさらに証券化する動きが広まった。
ほほ一兆ドルの資金がサブプライム市場に向かった20O4年から20O6年にかけての魔の2年間に、多くのサブプライムローンが証券化され、それらの金融商品が再び切り刻まれ、さらに別の証券化商品に入るということが繰り返された。
そこにはレパレッジ(テコ)もかけられたから、いったいどのくらいの金融商品にサブプライムの「原料」が入っているのか、誰にもわからない状態になってしまった。
ノーベル経済学賞を受賞したJ教授によると、そのなかで最終的に17O万件がデフォルトする危険性があるという。
そこまでデフォルト率が上がるかもしれないとなると、当然これらのローンをベースにした証券の価格も急落する。
変動金利のサブプライムローンは、すでに全体の20%以上が延滞している。
この20%はデフォルトしていると見ていいだろう。
また我々は今回の危機をサブプライム問題、またはサブプライム関連と呼んでいるが、実はプライムローンの方を見ても、変動金利ローンの5%が延滞しているのである。
プライムのデフォルト率が5%というのはたいしたことではないと思われるかも知れないが、プライムローン市場は規模がサブプライム市場よりずっと大きい。
金額もサブプライムよりも多い。
なぜならプライムローンであれば、それだけいい家を買えるからである。
ということはサブプライムの数倍の規模があるプライム市場で5%がデフォルトしているということは、サブプライムの20%とそれほど変わらない規模になる。
実際に昨年第44半期の差し押さえ件数を見ると、全体の54%がサブプライムである。
全体で20O万件あるサブプライムローンのうち最大17O万件でデフォルトが発生するかもしれないという話は、デフォルト率があまりにも高すぎて、日本の読者には奇異に感じられるかもしれない。
その背景にはアメリカと日本の住宅ローンの性格の違いがある。
日本の場合、住宅ローンを借りた人が返済できなくなれば、その家は差し押さえられ、競売にかけられる。
例えば、3OOO万円の住宅ローンを借りた人が、まだ25OO万円ローンが残っていて家が2000万円でしか売れなかったとすると、差額の5OO万は借りた人の責任になる。
家が無くなった上に5OO万の借金を背負うことになるから、最後はそれこそ夜逃げをするか、そうでなければ、自己破産せざるを得ない。
アメリカでは、そうはならない。
アメリカの住宅ローンはノンリコースローンであり、それは「人」ではなく「家」に貸し出されているという形になっているからである。
その分、だけ金利は高くなっているが、住宅価格がローン残高を下回るようになると、アメリカの借り手は返済意欲を失ってしまうのである。
例えば、前述のローン残高25OO万円で住宅価格が2000万円のケースでは、「これでは計算が合わないから、もうデフォルトしてしまえ」という人が出てくるのである。
アメリカでは借り手が家を銀行に返してしまえば、銀行は残りの5OO万円を請求できないシステムになっているからだ。
これをアメリカでは「リターン・ザ・キー」と呼んでいる。
「家の鍵を(銀行に)返す」という意味である。
もちろんそのような行動をとればその人の信用度は落ち、しばらくはローンを借りることができなくなるが、問題はそのコストである。
前述のエクイティのマイナス分がそれほど大きくなく、毎月の支払いが充分できるのであれば、人々は信用力を維持する方を選ぶだろう。
ローン残高が住宅価格を大幅に上回るようになったら、リターン・ザ・キーをして、家具をステーションワゴンに積んで家を明け渡せば、あとはすべて銀行の問題になる。
アメリカではこういう制度であるということを知らないと、なぜこれほど住宅ローンのデフォルトが増えているのか、ということが理解できないだろう。
サブプライム関連証券のリスク特性を理解できるのはほんの一握りの人たちだけサブプライムローンの規模は、すでに述べたように、約「一兆ドル」と言われている。
そのうち証券化されたものはその何割かだから、6OOO億ドルか、あるいは7000億ドルだろうか。
6、7000億ドルの問題だとしても、そのすべてが紙くずになってしまったわけではない。
家は実際に存在しているわけだから、ゼロにはなるはずがない。
たとえ半分が損失ということになっても3、4OOO億ドルぐらいの価値は残っているかもしれない。
その家が売れれば、多少なりとも資金は回収できるはずだ。
通常の住宅ローンや、それを証券化したものであれば、価格が下がれば必ず誰かが買いにくる。
例えば5割以上も下がれば、その背後にある家を買おうというバーゲンハンターが出てくるはずである。
今回のサブプライムローンの債権を組み込んだ金融商品はなかなか買い手が現れない。
彼らがなかなか現れないのは、これらの証券固有の物理的事情と投資家心理の2つの理由がある。
鮫子に微量の農薬を混入させたために日本で10人が被害に遭い、最終的に中毒は否定されたものの5915人が医療機関などに相談に行ったという騒ぎである。
ということは、食べても何の症状も出なかった人が何百万人から何千万人もいたはずである。
これらの鮫子はかなり前からずっと生産・出荷されてきたからだ。
鮫子だけではない。
中国から輸入したあらゆる冷凍食品を買わなくなってしまった。
今の日本では中国製食品はすべて売れなくなっている。
いま金融界で起きているのはこれと同じことなのである。
中国からの冷凍食品を食べてひどい目に遭うリスクはかぎりなくゼロに近い。
わざわざそんな危険な食品を買うことはないと、みんなが考えるのである。
それを食べてお腹が痛くなる可能性は一千万分の一しかなくても、隣に別の食品があればそちらを買う。
終戦直後の日本のように本当に飢餓状態にあれば、食べなければ飢え死にしてしまうわけだから、少々危険な鮫子でも飛ぶように売れたはずである。
他に選択肢が出てくると、とたんにみんなが食べなくなってしまう。
命の次に大事だと言われる金融の世界では、わずか数パーセントのリスクでもあるとなったら、その金融商品を買う人の数は激減してしまうのである。
自分では「買ってもいいかな」と思ったとしても、周りの人たちがみんな「危ない」と思っていれば、その商品を転売できなくなる。
いま買っても、将来転売できないのであれば、バーゲンハンターの人たちも動きづらくなる。
今回のサブプライム問題の根底にある心理であろう。
また日本では、金融庁がこんなわけもわからない証券は売却してしまえという指示を出したそうである。
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